ここ10年ほど、私はダンス講師として、ダンス・クラスにおける方法論と構造の考案を目指してきました。それは生徒が必要な審美眼、そしてプロのダンサーとして必要とされる体力と健康を積極的に開発するものです。同時に、ダンサーが自身の学習プロセスの中心にいること、またその習得をコントロールしているのは自分自身であるという意識を高めることをします。しばしばダンサーは、講師、振り付け、そしてカンパニー・ディレクターなど自身の意思が効かない外的な要因から制約を受けている気になるものです。身体と心が切り離され、ダンスのプロセスから気持ちが疎かになるのはいとも簡単です。ダンサーの個性と創造性が積極的に奨励される一方で、ある美意識を実現するために常に努力しなくてはならない、また権威ある人たちを喜ばせなくてはいけないという暗黙の了解に、ダンサーは抑圧された気持ちになるでしょう。
ソマティックの分野は、私達が個人として世の中の体験から受けた影響と関わっています。その影響を私たちは自分の行動様式や、自分の感情に取り入れます。個人として受けた影響は1人1人異なるため、当然行動様式や感情の取り入れ方もさまざまです。発育と成長の過程で私達が学習していく行動様式は、職業の選択、人間関係、日常的な出来事との取り組み方など、人生におけるあらゆる面において取り入れられます。ソマティックにはアレキサンダー・テクニックまたはフェルデンクライス・メソッドのようなものがあり、これらはフォルムより感情を重視し、それにより身体と心の結び付きをリラックスさせ筋神経系から不要な「雑音」を取り除きます。ソマティックとは自己受容体を基に実践するものです。自己受容体とは神経系を通じて身体から脳へフィードバックする物質で、それは身体が空間の中でどのように位置しているのか、またその動きの中における自己刺激を感応する重要な情報となります。
すべての動きは神経系統から生じます。ヒトは誕生すると、比較的単純な神経系統の働きにより赤ん坊としのニーズがほとんど満たされます。やがてお決まりの発育過程をたどるうちに、自己受容体から運動皮質へフィードバックが行われることで、幼児は多彩な動きのレパートリーを持つようになります。身体の要求が増すほどに新たな神経回路網が発達し、身体の運動能力の幅がさらに広まります。こうして複雑さを増す一方の動きを繰り返し行うことで、バレエ・ダンサーまたはピアニストが名パフォーマンスを披露することが出来るようになり、そのことをほとんど考えることがなく演じることが可能になるのです。
このようにして蓄積した筋神経系パターンは私たちの組織の中に根付き、私達が年齢を重ねるうちに、時には役に立たず身体への危険さえ伴うような芳しくない習慣まで身に付けることもあります。つまり、生まれたばかりの頃は神経系統が単純で分かりやすい働きをしていたことを忘れてしまうのです。これらの習慣をソマティックによるテクニックを利用して再パターン化します。そのためにはこれらの芳しくない習慣を作った発達パターンを再考し、身体を中性的な状態に戻した上でさらに複雑な運動パターンの基盤を整えていきます。
踊るということ、それは必要な体力、正確なコーディネーション、アーティスティックな表現力を平行して身に付けることです。しかし動きが複雑になればなるほど、ダンサーはその踊りの根源にある単純な運動パターンから遠ざかっていってしまいます。同時に情熱的に、集中して踊りたいというダンサーの思いと教師や振付家を喜ばせたいという必要性が、動きを感じる能力を優越してしまうかもしれません。スポーツの訓練ではある1つの特定のスキルを身に付けるために選手を磨き上げるのに対し、ダンスの訓練ではダンサーの動きの幅と可能性を無限大に増やしていくように鍛えられます。そのためには、自分の身体を「居心地が良い」と感じること、つまり身体こそが出発地点であり、休息が必要だったり、ストレスを感じている時に立ち戻ることが出来る場所であるという感覚を養うことが必要です。
しばしばダンサーは自らが至らない―と本人が思い込んでいる―点に対し厳しい自己批判をすることがあります。私達がダンサー達に自らの身体を、その長所も短所もひっくるめて受け入れるよう励ましていけば、自分自身を受け入れ自分の可能性を率直に感じることのできるダンサーを育んでいくことができるでしょう。鏡に映った時に完璧に見える「形」としての身体ではなく、動きに際していかに身体自体が準備を整えているのか感じ取るよう、ダンス生徒を励まします。そうすれば生徒達は、教師からのフィードバックに頼るのではなく自分が学んだことに個人的な責任を取ることができるようになるはずです。
私の研究はラバンとともにダンサーとして訓練し、後にフィジカル・セラピストとなったイルムガード・バルテニエフ(Irmgard Bartenieff)が発展させたコンセプトに焦点を当てています。バルテニエフは長年、心身共に問題を抱える患者達のリハビリに当たり、豊富な教師体験と研究を経てラバン・バルテニエフ運動研究協会を創設しました。彼女が開発し発展させたこのコンセプトを直接応用することで、生徒たちはダンスの動きを学ぶと同時に、より深いレベルで自分達の身体をはっきりと認識し理解することができるようになるのです。